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東京高等裁判所 昭和50年(ネ)2120号 判決 1976年5月27日

控訴人 株式会社青木舗装

右訴訟代理人弁護士 真木洋

同 小島敏明

被控訴人 東亜道路工業株式会社

同訴訟代理人弁護士 丸島秀夫

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴人は、「原判決を取り消す。被控訴人は控訴人に対し金二一七万三四一〇円及びこれに対する昭和四九年六月一日から支払済みまで年六分の割合による金員の支払いをせよ。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決並びに仮執行の宣言を求め、被控訴人は、控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述及び証拠関係は、次につけ加えるほか、原判決事実摘示のとおりであるから、ここにこれを引用する。

(事実上の陳述)

一、控訴人

(1)仮りに、本件工事の請負契約が被控訴人主張のように被控訴人とニノミヤ通商との間に締結されたものと認められたとしても、ニノミヤ通商は建設業法三条所定の建設業の許可を受けた者ではないから右請負契約を締結してもその効力は生ぜず、他方被控訴人はニノミヤ通商が右のような無許可業者であって、工事を受注する能力及び資格を欠く者であり、かつニノミヤ通商が本件工事を控訴人に請け負わせることを知りながら、契約を締結したものであるから、本件工事請負契約の効力は控訴人と被控訴人との間に直接生じ、被控訴人は控訴人に対し本件工事代金を支払う義務がある。すなわち、建設業法三条は同条所定の許可を受けないで道路工事を含む建設業を営むことを禁止し、右の規定に違反して建設業を営んだ者に対しては、同法四五条において刑罰に処する旨を定め、その強行法規性を明らかにしており、また同法七条においては、建設業の許可基準として、許可を受けようとする者が法人である場合にはその常勤の役員が許可を受けようとする建設業に関し五年以上の経営業務の管理責任者としての経験を有する者であることを要件としているものであって、右の規定に違反して何らの資格を有しない者が締結した建設工事の請負契約は当然無効である。しかるに、ニノミヤ通商は同法三条所定の許可を受けた者ではなく、アスフアルト乳剤のブローカーとして被控訴人方に出入りしていたものであり、その代表者二宮個人の自宅を会社の事務所として登記しているにすぎない会社で建設工事能力は皆無であるばかりでなく、二宮個人も同法七条所定の許可基準の要件を満たす者ではないから、ニノミヤ通商と被控訴人とが締結した本件工事請負契約は前記強行法規に違反し無効であり、その間に何らの契約関係は存しなかったこととなる一方、控訴人は同法三条所定の許可を受けている者であるから、この間の事情を被控訴人において知悉している以上、本件工事請負契約は控訴人と被控訴人との間に効力が生ずるものというべきである。さらに被控訴人とニノミヤ通商との本件工事請負契約が無効であることは、右の契約がいわゆる一括下請負契約であるところ、建設業法一六条においては一括下請負契約を締結することを禁止し、同法四五条では右の禁止に違反する者に対し刑罰に処することと定められているから同法一六条の規定はこれに違反した契約は無効とする趣旨と解すべきであることからみても明らかである。

(2)仮りに、右の本件工事請負契約の効力が控訴人と被控訴人との間に及ばないものと認められたとしても、同契約は前記のように無効なものであるから、被控訴人はこれにより本件工事の完成引渡しを受ける権利を有しないものというべきところ、本件工事は控訴人の出捐において完成したものであって、被控訴人は右の契約の履行として本件工事の引渡しを受けたものであるから、法律上の原因なくして控訴人の損失において本件工事代金相当額の利益を受けたものであり、これが利益を受けるにあたり法律上の原因がないことを知っていたものであることは前記のとおりであるから、悪意の不当利得者としてその受けた利益を控訴人に返還する義務がある。

二、被控訴人

前記控訴人の主張について

(1)ニノミヤ通商が建設業法三条所定の許可を受けていなかった者であることは知らない。仮りに、ニノミヤ通商において右の許可を受けていなかったとしても、同法七条所定の許可基準に適合する者であるし、また同法三条所定の許可を受けていなかったからといって被控訴人がニノミヤ通商と締結した本件工事請負契約が私法上当然に無効となるものではないのであって、このことは建設業法の趣旨及び目的、無許可業者のみに罰則が設けられていること、業界の慣行、業者以外の一般人の認識の程度、公序良俗違反の程度等から考えても無効とすべきでないことは明らかであり、ことに被控訴人は本件工事請負契約以前にもニノミヤ通商と取引をしていたものである等の事情を斟酌すればなおさらこれを無効とすべきではない。

(2)本件工事請負契約は、一括下請負契約ではない。いわゆる一括下請負契約は建設業法二二条一項により禁止されている(控訴人は一括下請負契約は同法一六条により禁止されていると主張するけれども同法条はこれを禁止している規定ではない。)ところであるが、被控訴人は本件工事において元請負人と協同し設計管理を行ない、現場を監督し、資材を提供し、人夫、機械の配置、指図、監督をなし、工事を所定の工期までに完成すべく一貫して責任をもって施工してきたものであるから、右法条の禁止に違反した一括下請負には該当しないし、また一括下請負契約は元請負人があらかじめ発注者の書面による承諾を得た場合には禁止されるものではないし、もともと一括下請負の禁止に対し違反して罰則の定めはないのであるから、同法二二条一、二項の規定に違反した契約でもそのことから直ちにこれが無効となるものではない。

(証拠関係)<省略>。

理由

一、当裁判所は、次につけ加えるほか、原判決と同じ理由で、控訴人の本訴請求は理由がなくこれを失当として棄却すべきものと判断するので、原判決の理由をここに引用する。

(1)原判決書六枚目表末行及び同八枚目表五行目中各「証言」の下に「、当審証人二宮右一の証言」を加える。

(2)控訴人は、被控訴人とニノミヤ通商との間の本件工事請負契約は建設業法の諸規定の禁止に違反して無効であることを主張し、これを理由に同契約が被控訴人と控訴人との間に効力を生じたものとしてその工事代金の支払いないしは不当利得に基づく返還の各請求を主張するところ、建設業法によると、建設業を営もうとする者は、その営業の規模に応じて建設大臣又は都道府県知事の許可を受けなければならない(同法三条一項)ものとされ、これが規定に違反して許可を受けないで建設業を営んだ者は、三年以下の懲役又は三十万円以下の罰金に処せられる(同法四五条)こととなっているけれども、同法律は建設業を営む者の資質の向上、建設工事の請負契約の適正化等を図ることによって、建設工事の適正な施工を確保し、発注者を保護するとともに、建設業の健全な発達を促進し、もって公共の福祉の増進に寄与することを目的として制定されたもの(同法一条)であって、このような立法趣旨に照らすと、前記法条は建設業を無許可で現実になされること自体を行政的立場から取り締ることを直接の目的とするいわゆる取締法規にすぎず、違反行為の私法上の行為までを否定する趣旨と解すべきではないから被控訴人とニノミヤ通商との間の本件工事請負契約は前記法条に照らし無効であるとする控訴人の主張は理由がなく、そのほかこれが無効であるとして主張するニノミヤ通商が同法七条所定の許可基準に該当しない者であるとの点についても、同法条は建設大臣又は都道府県知事が同法三条の許可処分をするにあたっての基準にすぎず、これが許可を受けないで建設業を営む者がなした建設工事請負契約の私法上の効力を否定すべからざることは前示説示のとおりであるから、ニノミヤ通商が同法七条所定の許可基準に適合しない者であることを理由に本件工事請負契約が無効であるとする控訴人の主張は理由がなく、さらに控訴人は本件工事請負契約はいわゆる一括下請負契約であるから同法一六条の規定に違反し無効であるというけれども、右法条の規定も建設業法の前記立法趣旨に照らして考えるといわゆる取締規定にすぎず、これが規定に違反して締結された下請契約が私法上無効とは解せられないのみならず、右の規定は発注者を保護する規定であって、発注者においてこれが下請契約の効力を云為するは格別、下請人ニノミヤからさらに下請契約を締結した控訴人において、前記下請契約の効力を云為することはできない立場にあるものと解すべく、さらに同法一六条は、特定建設業の許可を受けた者でなければその者が発注者から直接請け負った建設工事を施工するため政令で定める一定金額以上の下請契約を締結してはならない、とするものであって、前示引用の原判決認定事実によると、本件工事は被控訴人が訴外国土綜合開発株式会社を発注者としてこれから直接請け負った建設工事であって、前掲乙第八号証及び原審証人村井徳久の証言をあわせ考えると、被控訴人は同一六条所定の特定建設業の許可を受けた者であることが認められるのであるから、被控訴人がニノミヤ通商との間に締結した本件工事の下請契約は同法条に違反するものではないのであって、以上いずれの点よりするも被控訴人とニノミヤ通商との間に締結された本件工事請負契約が無効なものとは認められないのであるから、これが無効を理由に控訴人に対する直接右契約の効力が及ぶことを理由とする工事代金支払請求ないしは不当利得返還請求に関する控訴人の主張は理由がない。

二、したがって、控訴人の本訴請求を棄却した原判決は相当であって、本件控訴は理由がない。

よって、本件控訴を棄却し、控訴費用は敗訴の当事者である控訴人に負担させることとして、主文のように判決する。

(裁判長裁判官 菅野啓蔵 裁判官 舘忠彦 安井章)

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